「バイオプラスチック」とは？原料と生分解性の違いを理解する
【質問】
「バイオプラスチック」という言葉を聞く機会が増えましたが、具体的にどのようなプラスチックを指すのでしょうか。漠然と環境に良いイメージがありますが、全て自然に還るものと考えて良いのでしょうか。この言葉の定義が曖昧に感じられ、市民の方に説明する際にどのように伝えれば正確に理解していただけるか悩んでいます。
【回答】
バイオプラスチックという言葉は広く浸透しつつありますが、その定義や分類についてはしばしば誤解が見受けられます。これは、「バイオ」という言葉が持つ「自然由来」「環境配慮型」といったイメージと、実際のプラスチック製品の性質との間にギャップがあることが一因と考えられます。バイオプラスチックを正しく理解し、その情報を適切に伝えるためには、主に二つの異なる性質に注目して分類を捉えることが重要です。
それは、「どのような原料から作られているか」という点と、「使用後にどのように分解されるか」という点です。
1. 原料による分類：バイオマスプラスチック
バイオマスプラスチックとは、サトウキビやトウモロコシ、木材、植物油といった再生可能な有機資源である「バイオマス」を原料の一部または全部として製造されたプラスチックです。
バイオマス原料は、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収しながら成長します。そのため、バイオマスプラスチック製品を焼却する際に排出される二酸化炭素は、原料植物が吸収した分と相殺されると見なすことができ、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出抑制（カーボンニュートラル）に貢献する可能性があると考えられています。
代表的な例としては、サトウキビ由来のポリエチレン（PE）や、トウモロコシやジャガイモのでんぷん、サトウキビなどを原料とするポリ乳酸（PLA）などがあります。
しかし、バイオマスプラスチックであることと、使用後に自然環境で分解されるかどうかは、必ずしも一致しません。例えば、サトウキビ由来のPEは、石油由来のPEと化学構造が同じであり、生分解性を持たないものが多く存在します。バイオマスプラスチックの多くは、石油由来プラスチックと同様にリサイクルが可能ですが、分別や再生処理の体制が別途必要になります。
2. 分解性による分類：生分解性プラスチック
生分解性プラスチックとは、使用後に微生物の働きによって、最終的に水と二酸化炭素などの無機物にまで分解される性質を持つプラスチックです。
生分解性プラスチックの原料は、バイオマス由来の場合（例：ポリ乳酸 PLA）もあれば、石油由来の場合（例：ポリブチレンアジペートテレフタレート PBAT、ポリカプロラクトン PCLなど）もあります。つまり、生分解性プラスチックだからといって、必ずしもバイオマス由来であるとは限りません。
生分解性という性質は、特定の条件下で発揮されることに注意が必要です。例えば、工業用コンポスト施設のように、温度、湿度、酸素量、微生物の種類などが厳密に管理された環境でなければ、期待される期間内に速やかに分解が進まないものが多く存在します。一般的な自然環境（土中や海中など）では、分解に非常に長い時間がかかったり、分解がほとんど進まなかったりする場合があります。また、完全に無機物に分解される前に細片化し、マイクロプラスチックとなって環境中に残存する可能性も指摘されています。
3. 「バイオプラスチック」という言葉が指す範囲
一般的に「バイオプラスチック」という言葉は、これら「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」のどちらか一方、あるいは両方の性質を併せ持つプラスチックの総称として使われます。
つまり、「バイオプラスチック」という言葉を聞いただけで、そのプラスチックが「再生可能な原料からできているか（バイオマス由来か）」と「微生物によって分解されるか（生分解性か）」という二つの重要な性質を判断することはできません。
製品によっては、「バイオマスマーク」が表示されているもの（バイオマスプラスチックであることを示す）や、「生分解性プラ識別表示」が表示されているもの（生分解性プラスチックであることを示す）があります。これらの表示を確認することが、製品の正確な性質を把握する上で助けになります。
まとめ
「バイオプラスチック＝全て環境に良い」「バイオプラスチック＝全て土に還る」という単純な理解は、誤解を招く可能性があります。大切なのは、製品が「バイオマスプラスチック」なのか、「生分解性プラスチック」なのか、あるいはその両方の性質を持っているのかといった、具体的な種類や性質を正しく理解することです。
それぞれのプラスチックが持つ特性（原料、機能、分解性、適切な処理方法など）を把握した上で、用途や目的に応じた素材を選択し、使用後は表示や自治体のルールに従って適切に処理することが、持続可能な資源利用と環境負荷の低減につながります。
市民の方に説明する際は、「バイオプラスチックには、植物などからできた『バイオマスプラスチック』と、微生物が分解してくれる『生分解性プラスチック』があり、どちらの性質を持っているかで扱い方が変わります」といったように、二つの分類があることを明確に伝えることから始めると、混乱を防ぎやすいと考えられます。