バイオプラスチック製品の企業導入：評価基準と注意すべき点
企業活動において環境負荷低減への貢献が求められる中、従来のプラスチックに代わる素材としてバイオプラスチックへの関心が高まっています。しかし、実際に製品や資材として導入・調達を検討する際には、様々な疑問や懸念が生じることがあります。
単に「バイオプラスチックだから環境に良い」と判断するのではなく、自社の用途や環境目標に合致するかどうかを慎重に評価することが不可欠です。ここでは、企業がバイオプラスチック製品を選定・導入する際に考慮すべき具体的な評価基準や注意点について、よくある疑問に答える形式で解説します。
【質問1】企業がバイオプラスチック製品を選ぶ際に、まずどのような点を考慮すべきですか
【回答】 企業がバイオプラスチック製品の導入を検討する際、まず重要なのは、その製品を導入する目的を明確にすることです。環境負荷低減、サプライチェーンにおける脱炭素化、企業イメージ向上、特定の規制への対応など、目的によって最適なバイオプラスチックの種類や用途が異なります。
次に、自社の用途に求められる性能や品質基準を満たせるかを確認する必要があります。耐久性、耐熱性、バリア性、加工性など、従来のプラスチック製品と同等あるいはそれに準ずる性能が必要か、あるいは多少の性能差を許容できるかなど、具体的な製品仕様に基づいて評価します。
そして、ライフサイクル全体での環境負荷低減効果を評価することも不可欠です。原料調達から製造、輸送、使用、廃棄に至るまで、全体の環境影響を考慮する必要があります。単にバイオマス由来であることや生分解性であることだけに着目するのではなく、総合的な視点での評価が求められます。
これらの基本的な検討に加えて、コスト、供給安定性、既存のインフラ（リサイクルや廃棄システム）との適合性、そして信頼できるサプライヤーの選定といった要素も考慮する必要があります。
【質問2】コストは従来のプラスチックと比較してどう考えれば良いですか
【回答】 現時点では、多くの種類のバイオプラスチックは従来の石油由来プラスチックと比較して価格が高い傾向にあります。これは、まだ生産規模が小さかったり、特定の原料に依存したり、製造プロセスが従来のプラスチックとは異なったりすることが要因として挙げられます。
しかし、単純な原材料コストだけでなく、ライフサイクル全体のコストで評価することも重要です。例えば、軽量化による輸送コストの削減、特定の廃棄・処理方法によるコスト効率の改善、あるいは環境配慮型製品としてのブランド価値向上や新たな市場開拓による収益増加といった側面も考慮に入れる必要があります。
また、将来的には技術開発の進展や生産規模の拡大により、コストが低下する可能性もあります。導入に際しては、単年度の調達コストだけでなく、長期的な視点でのコスト構造と、企業価値向上への寄与を含めて検討することが望ましいです。
【質問3】性能や品質は従来のプラスチックと同等ですか。用途によって選定基準は変わりますか
【回答】 バイオプラスチックの性能や品質は、その原料や種類、製造方法によって大きく異なります。従来の石油由来プラスチックにはポリエチレン（PE）、ポリプロピレン（PP）、ポリエチレンテレフタレート（PET）など多様な種類があり、それぞれ異なる特性を持つのと同様に、バイオプラスチックにもポリ乳酸（PLA）、ポリブチレンアジペートテレフタレート（PBAT）、ポリヒドロキシアルカノエート（PHA）など様々な種類があり、耐熱性、強度、柔軟性、バリア性などが異なります。
したがって、求められる性能に応じて最適なバイオプラスチックの種類を選定する必要があります。例えば、高い耐熱性が必要な用途には特定の種類のバイオプラスチックや改質技術が必要になることがあります。また、食品包装のように高いバリア性が求められる用途や、耐久性が重要な建築材料など、用途が異なれば当然選定基準も変わってきます。
従来のプラスチックと同等の性能が求められる場合もあれば、特定の環境下での分解性など、バイオプラスチックならではの特性を活かしたい場合もあります。自社の具体的な用途に対して、どの種類のバイオプラスチックが最も適しているか、性能データやサンプル評価を通じて慎重に判断することが重要です。
【質問4】環境負荷はどのように評価すれば良いですか
【回答】 バイオプラスチックの環境負荷を評価する際には、ライフサイクルアセスメント（LCA）の考え方が不可欠です。LCAでは、原料の栽培・採取から製品の製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルに至るまで、製品のライフサイクル全体を通して環境負荷（温室効果ガス排出量、資源消費、水質汚染など）を定量的に評価します。
単に「植物由来だから」「生分解性だから」といった一面的な情報だけでなく、LCAの結果に基づいて、従来のプラスチック製品と比較してどの環境負荷項目がどの程度削減されるのか、あるいは増加するのかを確認することが重要です。例えば、原料の栽培段階での土地利用変化や肥料・農薬の使用、製造時のエネルギー消費などが環境負荷に影響します。
また、信頼性のある第三者認証制度を活用することも有効な評価方法です。例えば、植物由来成分の含有率を示すバイオマスプラマークや、特定の環境下での生分解性を示すOK Compostなどの認証マークは、一定の基準に基づいた製品であることを示す指標となります。ただし、認証マークが示す内容を正しく理解し、自社の環境目標と合致するかを確認することが重要です。
サプライヤーからLCAデータや環境関連情報の提供を求め、可能な限り客観的なデータに基づいて評価を行うことが推奨されます。
【質問5】サプライヤーを選定する際に注意すべき点はありますか
【回答】 バイオプラスチック製品のサプライヤーを選定する際には、製品の品質や性能だけでなく、信頼性や情報開示の姿勢も重要な評価ポイントとなります。
確認すべき点としては、以下の項目が挙げられます。
- 供給安定性: 必要な量を継続的に供給できる生産体制や、原料調達の安定性を確認します。
- 品質管理体制: 製品の品質が安定しているか、適切な品質管理システムを有しているかを確認します。
- 技術開発力: 用途に応じた性能向上や新規開発への対応が可能か、技術的なサポート体制を確認します。
- 環境情報開示: 原料調達の持続可能性、LCAデータ、認証取得状況など、環境に関する情報を適切かつ透明性をもって開示しているかを確認します。特に原料のトレーサビリティ（追跡可能性）は重要な要素です。
- 実績: これまでの納入実績や、他の企業の導入事例などを参考にします。
複数のサプライヤーから情報を収集し、上記の点を総合的に評価することで、自社にとって最適なパートナーを選定することができます。
【質問6】グリーンウォッシュを見分けるためのポイントは何ですか
【回答】 バイオプラスチックは環境配慮型素材として注目される一方で、「グリーンウォッシュ」（実態を伴わない環境配慮アピール）のリスクも存在します。企業が製品を調達する際には、以下の点に注意することでグリーンウォッシュを見分ける可能性が高まります。
- 具体的な根拠の確認: 「環境に優しい」「持続可能」といった抽象的な表現だけでなく、その根拠となる具体的なデータ（例：LCAデータ、植物由来成分の含有率、特定の環境下での分解率など）の提示を求めます。
- 認証マークの確認と理解: 信頼性のある第三者機関による認証マーク（バイオマスプラ、OK Compostなど）が表示されているかを確認し、そのマークが具体的に何を意味するのか（例：バイオマス成分の割合、特定のコンポスト環境での生分解性など）を正しく理解します。海洋生分解性など、特定の環境下でしか分解されない性質を一般的な「環境で分解される」と誤解させる表示には特に注意が必要です。
- ライフサイクル全体の視点: 製品のライフサイクル全体での環境負荷低減効果について説明を求め、一部の側面にだけ焦点を当てたアピールではないかを確認します。
- 透明性のある情報開示: サプライヤーが、製品に関する環境情報をウェブサイトや資料で transparent（透明）に公開しているかどうかも判断材料になります。
不明な点や疑問点があれば、サプライヤーに積極的に質問し、納得のいく説明が得られるかどうかも重要な判断基準となります。
【質問7】導入後に効果を測定したり、情報を公開したりする際の留意点はありますか
【回答】 バイオプラスチック製品の導入は、それ自体が目的ではなく、環境負荷低減などの目的を達成するための手段です。導入効果を測定し、適切に情報公開することは、取り組みの透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を得るために重要です。
効果測定においては、事前に設定した目標（例：プラスチック使用量○%削減、CO2排出量○トン削減など）に対する達成度を、可能な限り定量的なデータに基づいて評価します。導入した製品の種類、使用量、それに伴う環境負荷の変化などを継続的にトラッキングすることが望ましいです。
情報公開においては、以下の点を留意します。
- 対象と範囲を明確に: 導入した製品や用途、評価対象とする環境負荷項目（CO2排出量、廃棄物量など）の範囲を明確に示します。
- 根拠に基づいた情報: 測定結果やLCAデータなど、客観的な根拠に基づいた情報を提供します。
- メリットだけでなく課題も: メリットだけでなく、導入を通じて明らかになった課題や今後の改善に向けた取り組みについても正直に伝えることで、情報全体の信頼性が高まります。
- 分かりやすい表現: 専門用語を避け、誰にでも理解できるよう平易な言葉で説明します。必要に応じて図やグラフなどを活用します。
- グリーンウォッシュと捉えられない配慮: 過度な強調や、実態以上に環境配慮が進んでいるかのような印象を与える表現は避けます。
企業のウェブサイト、統合報告書、CSR報告書、プレスリリースなど、適切な媒体を通じて定期的に情報を発信することが効果的です。
バイオプラスチック製品の導入は、企業の持続可能性への取り組みを示す重要な一歩となり得ます。しかし、その複雑さゆえに、慎重な情報収集、多角的な評価、そして正確なコミュニケーションが不可欠です。これらのQ&Aが、皆様のバイオプラスチック製品導入における適切な意思決定の一助となれば幸いです。