生分解性バイオプラスチック、表示だけでは適切に処理できない?必要な環境と現状のギャップ
【質問1】「生分解性バイオプラスチック」とは、どのような環境でも分解されるのでしょうか?
【回答】 「生分解性」とは、微生物の働きによって分子レベルまで分解され、最終的に二酸化炭素や水などの無機物とバイオマスになる性質を指します。しかし、生分解が進行するためには、プラスチックの組成だけでなく、存在する微生物の種類、温度、湿度、酸素の有無といった特定の環境条件が整っている必要があります。
例えば、土壌中で分解されるプラスチックは、土壌中に生息する特定の微生物が活動できる温度・湿度条件下で分解が進みます。コンポスト施設では、より高温で水分も多く、活発な微生物活動が促されるため、一般的に土壌よりも早く分解が進みます。海洋環境での分解は、塩分濃度、水温、特定の微生物の有無などが影響し、同じ「生分解性」とされる素材でも、陸上やコンポスト環境とは異なる分解挙動を示すことが知られています。
つまり、「生分解性」という性質は絶対的なものではなく、どのような環境で、どのくらいの期間で分解されるかという具体的な条件とセットで理解する必要があります。製品に「生分解性」と表示されている場合でも、それは多くの場合、特定の標準規格(例えばISO 17088やEN 13432など)で定められた特定の環境下での生分解性を示していると考えられます。
【質問2】製品に「生分解性」と表示されていれば、普通のゴミと一緒に捨てても大丈夫でしょうか?
【回答】 残念ながら、通常は「生分解性」と表示されているからといって、普通のゴミとして捨てても問題なく環境中で分解されるわけではありません。この点が、生分解性バイオプラスチックに関する誤解を招きやすい要因の一つです。
一般的な都市ごみとして回収されたプラスチックは、主に焼却されるか、埋立地に送られます。日本の多くの地域では焼却処理が中心ですが、生分解性プラスチックを従来のプラスチックと混合して焼却した場合、エネルギー回収は可能である一方、生分解性という特性が活かされるわけではありません。また、仮に埋立地に送られたとしても、埋立地の環境(酸素不足、低温など)は生分解に適さない場合が多く、分解が非常に遅れるか、ほとんど進まない可能性があります。
自然環境(土壌や河川、海洋など)に意図せず排出された場合も、製品が想定している特定の分解環境が整っていないことがほとんどです。その結果、分解が極めてゆっくりとしか進まず、細かく破砕されてマイクロプラスチックとなるリスクも指摘されています。
したがって、「生分解性」表示がある製品であっても、その製品が想定する「適切な分解環境」で処理されなければ、生分解による環境負荷低減効果は期待できません。通常の廃棄ルートでは、この「適切な分解環境」が提供されない場合が多いというのが現状です。
【質問3】では、「生分解性」と表示された製品は、どのように処理するのが最も環境負荷が少ないのでしょうか?
【回答】 「生分解性」と表示された製品の適切な処理方法は、その製品がどのような環境での生分解性認証を取得しているかによって異なります。多くの生分解性バイオプラスチック製品は、産業用コンポスト環境での生分解性に関する認証(例:欧州のOK Compost Industrial、日本のグリーンバイオマークなど)を取得しています。
産業用コンポスト施設では、温度や水分、微生物の種類といった分解条件が厳密に管理されており、これらの条件を満たすプラスチックは比較的短期間で堆肥に分解されます。したがって、製品に産業用コンポスト対応の認証マークが表示されている場合は、もしお住まいの地域にそのような施設があり、回収・処理システムが整備されていれば、それが最も意図された適切な処理ルートとなります。
一方で、家庭用コンポストや土壌中、海洋中での生分解性に関する認証(例:OK Compost Home, OK Biodegradable Soil, OK Biodegradable Marineなど)を持つ製品も存在しますが、これらはまだ少なく、それぞれ求められる環境条件も異なります。家庭用コンポストでの分解は、産業用ほど条件が安定しないため、分解に時間がかかったり、完全に分解されなかったりする場合があります。
最も重要なのは、製品に記載されている表示や認証マークを確認し、その情報に基づいて各自治体の定める分別・廃棄ルールに従うことです。現状では、多くの地域で生分解性プラスチックの専用回収ルートは確立されておらず、やむを得ず可燃ごみとして処理されているケースが多いと考えられます。しかし、生分解性を環境負荷低減につなげるためには、消費者の適切な分別行動に加え、製品設計段階での「使い終わり」の考慮、そして適切な処理インフラ(産業用コンポスト施設など)の整備と普及が不可欠です。
【質問4】「生分解性」という表示は、消費者に誤解を与えやすい「グリーンウォッシュ」の一種ではないかと懸念しています。どのように判断すれば良いでしょうか?
【回答】 「生分解性」という表示が、適切に利用されない場合に消費者に誤解を与えやすい点は確かに課題です。すべての「生分解性」表示が直ちに「グリーンウォッシュ」であるとは断定できませんが、必要な分解環境に関する情報が不足している場合、消費者は「捨てれば勝手に自然に還る」と誤解し、不適切な場所に廃棄してしまうリスクが生じます。
製品に「生分解性」と表示されている場合、以下の点を注意深く確認することが、グリーンウォッシュを見分ける一つの手がかりとなります。
- 具体的な認証マークの有無: どの機関の、どのような環境での生分解性認証を取得しているかが明確に表示されているかを確認します。「生分解性」とだけ漠然と表示されている場合よりも、具体的な認証マーク(例:OK Compost Industrial, Seedling logoなど)がある方が信頼性は高まります。これらのマークは、特定の標準規格に準拠していることを示しています。
- 適切な処分方法に関する情報の提供: 製品パッケージや企業のウェブサイトなどで、製品を使用し終わった後の推奨される処理方法(例:産業用コンポスト可能な地域での分別、自治体のルールに従うなど)について、分かりやすく説明されているかを確認します。必要な処理環境について具体的に示されていない場合、注意が必要です。
- ライフサイクル全体での環境負荷: 生分解性はプラスチックの「使い終わり」に関する一つの側面に過ぎません。原料調達から製造、輸送、使用、廃棄に至るライフサイクル全体を通して、本当に環境負荷が低減されているのか、LCA(ライフサイクルアセスメント)などの科学的評価に基づいて判断されている製品や取り組みであるかどうかも、より深いレベルでの判断材料となります。
「生分解性」という表示は、正しく使われ、必要な情報が伴っていれば、適切な廃棄システムと組み合わせることで環境負荷低減に貢献しうる重要な性質です。しかし、その裏にある「特定の環境が必要である」という前提を消費者や利用者が理解できるよう、正確で透明性のある情報提供が求められています。不明な点があれば、認証機関や製品の製造元に問い合わせることも有効な手段です。