バイオプラスチックは本当にカーボンニュートラル?CO2排出とライフサイクル評価
環境配慮型の素材として注目されるバイオプラスチックですが、「植物由来だからCO2排出はゼロ」あるいは「カーボンニュートラルだ」という考え方を聞くことがあります。これはバイオプラスチックの特性の一部を捉えたものですが、全体像を正確に理解するためには、もう少し掘り下げて考える必要があります。特に、環境負荷を評価する際には、製品の一生、つまり原料調達から製造、使用、そして廃棄に至るまでのすべての段階を考慮に入れる「ライフサイクル評価(LCA)」の視点が不可欠となります。この視点から、バイオプラスチックとCO2排出、そして「カーボンニュートラル」という言葉の関係性について解説します。
【質問】
バイオプラスチックは「カーボンニュートラル」なのでしょうか。
【回答】
「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺し、正味排出量をゼロにすることを目指す考え方です。バイオプラスチックがこのカーボンニュートラルに貢献する可能性については、その原料とライフサイクル全体を見る必要があります。
原料段階でのCO2吸収
多くのバイオプラスチックは、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料としています。これらの植物は、成長過程で光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、自身の体内に炭素として固定します。このため、バイオプラスチックを燃焼させてCO2が発生したとしても、それは元々植物が吸収したCO2が大気中に戻るだけである、と考えることができます。これを「バイオジェニックカーボン」と呼び、原則として、燃焼によるバイオジェニックカーボンの放出は地球全体のCO2濃度を増加させない、つまりカーボンニュートラルと見なされます。この点が、「バイオプラスチックはカーボンニュートラル」と言われる根拠の一つです。
ライフサイクル全体でのCO2排出
しかし、製品全体のCO2排出量を評価する際には、原料植物の育成からプラスチック製品としての製造、輸送、そして使用後における回収や処理(廃棄、リサイクル、コンポスト化など)に至るまで、全ての段階で発生する温室効果ガスの排出を考慮する必要があります。
- 原料生産: 原料となる植物を栽培する際には、農地の耕作、肥料や農薬の使用、収穫、そしてこれらに使用される農業機械の稼働などによりCO2やその他の温室効果ガスが排出されます。
- 製造: 原料をプラスチックに加工する工程では、エネルギー(電力や熱)が使用され、これによりCO2が排出されます。石油由来プラスチックの製造工程と同様に、多くのエネルギーを必要とします。
- 輸送: 原料や製品の輸送にも燃料が使用され、CO2が排出されます。
- 廃棄・処理: 使用後の製品を焼却すれば、前述のバイオジェニックカーボンが放出されますが、これはカーボンニュートラルと見なされ得ます。しかし、埋め立てられた場合には、種類によってはメタンガス(CO2よりも強力な温室効果ガス)が発生する可能性もあります。また、リサイクルやコンポスト化の工程でもエネルギーが消費され、CO2が発生します。
このように、バイオプラスチック製品のライフサイクル全体を見ると、原料が成長過程でCO2を吸収するとしても、それ以外の段階でCO2やその他の温室効果ガスが必ず排出されます。したがって、バイオプラスチック製品全体として、必ずしも「正味排出量ゼロ」であるカーボンニュートラルであるとは限りません。
従来プラスチックとの比較における位置づけ
バイオプラスチックの環境負荷は、製品の種類、原料、製造方法、そして最終的な処理方法によって大きく異なります。ライフサイクル全体で評価した場合、多くのバイオプラスチックは、同じ機能を持つ石油由来プラスチックと比較して、温室効果ガスの排出量を削減できる可能性を秘めています。特に、再生可能な植物を原料とすることによる原料段階でのCO2吸収分は、石油由来プラスチックにはない特徴です。しかし、その削減効果は、原料の栽培方法、製造時のエネルギー源(再生可能エネルギーか化石燃料か)、輸送距離、そして最終処理方法など、様々な要因に左右されます。
まとめ
バイオプラスチックは、原料である植物が成長過程で大気中のCO2を吸収するため、カーボンニュートラルの概念に貢献する側面を持っています。しかし、製品の製造、輸送、廃棄など、ライフサイクル全体で発生する温室効果ガス排出量を無視することはできません。したがって、「バイオプラスチック=カーボンニュートラル」と単純に捉えるのではなく、ライフサイクル全体での環境負荷、特に温室効果ガス排出量を総合的に評価することが重要です。製品によっては、石油由来プラスチックよりも大幅なCO2削減に貢献するものもあれば、そうでないものもあります。正確な情報に基づき、適切な評価が行われた製品を選択することが求められます。