疑問解決!バイオプラQ&A

バイオプラスチックはマイクロプラスチック問題の解決策になるのか?

Tags: バイオプラスチック, マイクロプラスチック, 生分解性, 環境問題, 海洋汚染, プラスチック問題

バイオプラスチックは、地球環境問題、特にプラスチック汚染への対策として注目されています。その一方で、マイクロプラスチックによる海洋汚染などの問題は深刻化しており、バイオプラスチックがこうした問題の解決に貢献できるのかという疑問が寄せられています。ここでは、バイオプラスチックとマイクロプラスチック問題の関係性について解説いたします。

【質問】バイオプラスチックを使えば、マイクロプラスチックは発生しないのでしょうか?

従来の石油由来プラスチックが破砕され、5mm以下の微細な粒子となったものがマイクロプラスチックであり、これが環境中に広く拡散し、生態系への影響などが懸念されています。バイオプラスチックには、原料がバイオマス由来である「バイオマスプラスチック」と、微生物によって分解される性質を持つ「生分解性プラスチック」、そしてその両方の性質を持つものがあります。マイクロプラスチックの発生抑制という観点からは、「生分解性」という性質が重要になりますが、生分解性バイオプラスチックであっても、必ずしもマイクロプラスチックを発生させないわけではありません。

【回答】 バイオプラスチックの種類によって、マイクロプラスチックの発生に対する挙動は異なります。

まず、バイオマス由来ではあるが生分解性を持たないバイオプラスチック(例: サトウキビ由来のポリエチレン)は、化学的には従来の石油由来プラスチックと同じ構造を持つ場合が多く、環境中での分解性は従来のプラスチックと同等です。したがって、これらが破砕されると、石油由来プラスチックと同様にマイクロプラスチックを発生させます。これは、原料が植物由来であっても、プラスチックとしての性質が変わらないためです。

次に、生分解性バイオプラスチック(例: PLA、PBS、PHAなど)についてです。これらのプラスチックは、特定の環境条件(温度、湿度、微生物の存在など)の下で微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素などの無機物になります。理想的な条件下、例えば適切に管理された産業用コンポスト施設などでは、比較的短期間で分解が進み、マイクロプラスチックとして環境中に残存する可能性は低くなります。

しかし、現実の自然環境、特に海洋や土壌中では、生分解性プラスチックが分解するために必要な温度や湿度、特定の微生物といった条件が常に整っているわけではありません。こうした条件下では、分解速度が著しく遅くなったり、部分的な分解しか進まなかったりすることがあります。分解が不完全な場合、プラスチックは物理的な力(波、風、紫外線など)によって破砕され、マイクロプラスチックとして環境中に蓄積する可能性があります。特に海洋環境は、生分解性プラスチックの多くにとって分解に適した条件とは言えず、多くの製品が海洋で速やかに分解されるわけではないことが指摘されています。

したがって、「バイオプラスチックを使えばマイクロプラスチックが発生しない」という認識は正確ではありません。特に生分解性プラスチックであっても、どのような環境で、どのように処理されるかによって、マイクロプラスチック化のリスクは異なります。

【質問】生分解性バイオプラスチックは、マイクロプラスチック問題の根本的な解決策になるのでしょうか?

上記の通り、生分解性バイオプラスチックは特定の環境下で分解されますが、自然環境、特に海洋では分解が進みにくい現状があります。このことから、生分解性バイオプラスチックを導入することだけで、マイクロプラスチック問題を解決できるのかという疑問が生まれます。

【回答】 生分解性バイオプラスチックは、プラスチックごみが環境中に流出した場合に、従来のプラスチックよりも環境負荷を低減する可能性を秘めていますが、マイクロプラスチック問題の万能な、あるいは根本的な解決策とは言えません。

その理由は、主に以下の点にあります。

  1. 分解には特定の条件が必要: 多くの生分解性プラスチックは、高い温度や湿度、特定の微生物が存在する環境(例: 産業用コンポスト施設)で最も効率的に分解されます。一般的な自然環境、特に冷たい海洋環境では、分解が非常に遅く、マイクロプラスチック化を防ぐことが困難です。
  2. 認証制度の限界: 「生分解性」を謳う製品には様々な認証がありますが、その認証が示す分解環境(例: コンポスト、土壌、海洋)と、実際に製品が使われた後に廃棄される環境が一致しない場合、意図したような分解は期待できません。特に「海洋生分解性」認証は要件が厳しく、全ての生分解性プラスチックがこれに適合するわけではありません。また、認証を取得している製品であっても、実際の海洋環境での分解速度は様々な要因に左右されます。
  3. 廃棄物管理の課題: 生分解性プラスチックを環境負荷低減につなげるためには、使用後の適切な処理が必要です。コンポスト可能な製品であればコンポスト施設で処理する必要がありますが、こうした施設は十分に普及しておらず、多くの場合、他のプラスチックごみと同様に焼却されたり、埋め立てられたりしています。不適切な処理は、生分解性のメリットを活かせないだけでなく、マイクロプラスチック化のリスクを残します。
  4. 根本原因への対策ではない: マイクロプラスチック問題の根本原因の一つは、プラスチック製品の過剰な生産と消費、そして不適切な廃棄物管理にあります。生分解性プラスチックの導入は、あくまで「環境に流出した場合のリスク低減」という側面が強く、使い捨て文化の見直しや、ごみ削減、リサイクル推進といったより上位の対策なしに、問題全体を解決することは難しいと言えます。

これらのことから、生分解性バイオプラスチックは、特定の用途や適切な廃棄システムと組み合わせることで、従来のプラスチックに比べて環境負荷を低減する可能性を持つものの、これだけでマイクロプラスチック問題が解決するわけではないという認識が必要です。プラスチック問題全体への対策としては、製品のライフサイクル全体を考慮した設計、ごみの発生抑制(リデュース)、再利用(リユース)、そして適切な分別とリサイクルやコンポストを含む適正な廃棄物管理といった、多角的なアプローチが不可欠です。

環境負荷低減を目指す上では、安易に「生分解性だから安心」と判断せず、製品の素材、用途、そして使用後の推奨される処理方法などを確認し、全体の環境影響を考慮することが重要です。