バイオプラスチックは既存のプラスチック製造設備でそのまま加工できる?導入時の課題と検討事項
バイオプラスチックを既存のプラスチック製造設備で加工する際の疑問
バイオプラスチックの導入を検討する企業から、「現在使用しているプラスチック製造設備をそのまま利用できるのか」「設備投資が新たに必要になるのか」といった疑問が寄せられることがあります。設備の適合性は、導入コストや生産プロセスに大きく影響するため、非常に重要な検討事項となります。
ここでは、バイオプラスチックを既存のプラスチック製造設備で加工する際の可能性と、それに伴う技術的な課題、そして企業が導入時に考慮すべき点について解説します。
【質問】バイオプラスチックは、現在使用しているプラスチック製造設備でそのまま加工できるのでしょうか?
【回答】
一概に「そのまま加工できる」とは断言できませんが、多くのバイオプラスチックは、既存のプラスチック製造設備(射出成形機、押出成形機など)で加工が可能です。しかし、材料の種類や特性、そして設備の仕様によっては、設定の調整や一部の部品交換、あるいは改修が必要となる場合があります。
従来の石油由来プラスチックと同様に、バイオプラスチックにも様々な種類があり、それぞれ融点、粘度、熱安定性、吸湿性などの特性が異なります。例えば、ポリ乳酸(PLA)は比較的低い温度で加工できますが、熱や湿気に弱いため事前の乾燥が重要です。一方、ポリアミド11(PA11)のようなバイオマスプラスチックは、従来のPAと同様の加工条件に近い場合があります。
既存の設備で加工を試みる際は、使用するバイオプラスチックの正確な材料データシート(テクニカルデータシート、加工条件推奨値など)を確認し、設備の対応能力と照らし合わせることが不可欠です。
【質問】既存設備でバイオプラスチックを加工する際に、具体的にどのような技術的な課題が発生する可能性がありますか?
【回答】
既存設備でのバイオプラスチック加工において、いくつかの技術的な課題が想定されます。主なものを以下に挙げます。
- 温度設定と制御: バイオプラスチックは、従来のプラスチックとは異なる最適な溶融温度範囲を持っています。特に、熱安定性の低い材料では、設定温度が高すぎると分解したり、物性が劣化したりする可能性があります。精密な温度制御が可能な設備であるかどうかが重要です。
- スクリュー設計と回転速度: バイオプラスチックの粘度やせん断発熱の特性に合わせて、スクリューの圧縮比やフライト形状、回転速度を調整する必要がある場合があります。不適切な条件では、材料の焼け付き、混練不足、吐出量の不安定化などが起こり得ます。
- 金型設計と温度管理: 金型内の流動性や冷却固化の特性も、バイオプラスチックの種類によって異なります。適切なゲート・ランナー設計、および精密な金型温度管理が製品の品質(寸法精度、反り、内部応力など)に影響します。
- 乾燥: PLAなど特定のバイオプラスチックは非常に吸湿性が高く、適切に乾燥させないと加水分解を起こし、分子量が低下して物性が著しく損なわれます。ホッパー乾燥機や除湿乾燥機の能力が、使用するバイオプラスチックの要求性能を満たしているか確認が必要です。
- 離型性: 成形後の製品が金型からうまく剥がれない(離型性が悪い)という問題が発生することもあります。これは材料特性や金型表面の状態、離型剤の有無などに起因します。
- 摩耗と腐食: 一部のバイオプラスチックや添加剤は、スクリューやシリンダー、金型に対して腐食性や摩耗性を有する場合があります。設備がこれらの材料に対応できる材質であるかを確認することも重要です。
これらの課題は、使用するバイオプラスチックの種類、製品形状、要求される品質レベル、そして既存設備の仕様によって異なり、複合的に影響します。
【質問】既存設備での加工導入を検討する際、企業はどのような点に注意し、どのように進めるべきでしょうか?
【回答】
既存設備でのバイオプラスチック加工導入を成功させるためには、以下の点を検討し、計画的に進めることが推奨されます。
- 材料メーカーとの連携: まず、使用を検討しているバイオプラスチックの材料メーカーと密接に連携することが最も重要です。メーカーは通常、その材料の推奨加工条件、必要な乾燥条件、設備への要求仕様、そして潜在的な課題に関する詳細な情報を持っています。技術サポートを受けながら進めることで、課題解決のスピードが向上します。
- 材料データシートの徹底確認: 材料メーカーから提供されるテクニカルデータシート、安全データシート(SDS)、加工ガイドラインなどを詳細に確認します。特に、融点、ガラス転移点、熱分解温度、MFR(メルトフローレート)、推奨乾燥条件、推奨加工温度範囲などを把握し、既存設備の能力と比較します。
- 設備の仕様確認: 現在使用している設備の仕様(最高温度設定、スクリューのタイプ、金型仕様、乾燥機の能力など)を詳細に確認し、選択したバイオプラスチックの要求仕様と比較します。必要であれば、設備メーカーに相談し、加工可否や必要な改修について助言を求めます。
- 少量での試作・評価: 可能であれば、実際の生産に入る前に少量スケールで試作を行い、加工条件の調整や製品の品質評価を行います。試作を通じて、想定される課題(例:反り、寸法変化、物性低下、離型不良など)を特定し、対策を検討します。
- 必要に応じた設備改修や部品交換: 試作や検討の結果、既存設備の一部改修(例:スクリュー交換、ヒーター増設、乾燥機能力向上)や部品交換が必要となる場合もあります。その際のコストや期間も考慮に入れます。
- オペレーターへの教育: バイオプラスチックの加工には、従来のプラスチックとは異なる知識や技術が必要となる場合があります。適切な加工条件設定やトラブルシューティングのために、オペレーターへの十分な教育が重要です。
これらのステップを踏むことで、既存設備の能力を最大限に活かしつつ、バイオプラスチック加工へのスムーズな移行を図ることが可能となります。一方で、材料の種類によっては、既存設備での対応が困難であり、専用の設備が必要となるケースも存在することを理解しておく必要があります。導入検討の初期段階で、これらの可能性を十分に評価することが肝要です。