バイオプラスチックを焼却すると環境負荷は?従来のプラスチックとの違いと課題
プラスチック製品の多くは、使用後に焼却施設で処理されています。この現実の中で、バイオプラスチックを焼却した場合にどのような環境影響があるのか、また従来のプラスチックと比べて何が違うのかは、ごみ処理や環境政策に関わる方々にとって重要な関心事と考えられます。特に、バイオプラスチックが「環境に優しい」というイメージから、焼却に関しても無条件に環境負荷が低いと誤解されやすい側面もあります。ここでは、バイオプラスチックの焼却に関するよくある疑問にお答えします。
【質問】バイオプラスチックを焼却処理した場合、環境への影響はどうなりますか?従来のプラスチックと比べて有利なのでしょうか?
バイオプラスチック製品も、多くの場合、一般的なごみ処理施設で焼却されることになります。この焼却処理に伴う環境影響や、従来のプラスチック(化石資源由来のプラスチック)との比較については、いくつかの側面から考える必要があります。
【回答】
バイオプラスチックの焼却に伴う環境影響は、主にCO2排出とその他の排出物、そしてエネルギー回収の観点から評価されます。
1. CO2排出について
- 従来のプラスチック: 化石資源由来の炭素を主成分としているため、焼却により、大気中に新たなCO2が放出されます。これは地球温暖化ガス排出として計上されます。
- バイオプラスチック: 植物などの再生可能資源を原料としています。これらの植物は生育過程で大気中のCO2を吸収しています。そのため、バイオプラスチックを焼却して放出されるCO2は、原料植物が生育時に吸収したCO2と相殺されると考えられ、全体のCO2増加には繋がらないという考え方があります。これが、バイオプラスチックが「カーボンニュートラルに近い」と言われる根拠の一つです。
しかし、この「カーボンニュートラル」はあくまで原料由来のCO2排出に関する基本的な考え方であり、焼却プロセス全体やライフサイクル全体を考慮する必要があります。
2. 焼却プロセス全体の考慮事項
- 製造・輸送の負荷: バイオプラスチックも製造や輸送にはエネルギーが必要であり、それに伴うCO2排出や環境負荷が発生します。焼却時のみでなく、製品のゆりかごから墓場まで(ライフサイクル全体)で環境負荷を評価することが重要です。
- 焼却時のエネルギー回収: 多くの近代的なごみ焼却施設では、焼却時の熱を利用して発電などのエネルギー回収を行っています。バイオプラスチックを焼却してエネルギーを回収することは、化石燃料由来のエネルギー使用を抑制することに繋がり、この点では環境負荷低減に寄与する可能性があります。従来のプラスチックも同様にエネルギー回収に利用されますが、再生可能資源由来のバイオプラスチックからのエネルギー回収は、再生可能エネルギー利用の促進という点で利点があると見なされる場合があります。
- 有害物質の発生: 焼却条件やプラスチックの種類によっては、ダイオキシンなどの有害物質が発生するリスクがあります。これは従来のプラスチック、バイオプラスチックに関わらず、適切な焼却温度や燃焼管理を行うことが極めて重要です。最新の焼却炉は、適切な温度管理と排ガス処理設備により、これらの物質の発生を抑制しています。バイオプラスチック特有の有害物質発生リスクが必ずしも高いわけではありませんが、使用されている添加剤によっては考慮が必要な場合もあります。
- 焼却灰: 焼却後には灰が残ります。この灰の量や性質は、焼却されるプラスチックの種類や組成に影響を受けますが、基本的には適切に処理する必要があります。
3. 環境負荷の比較における注意点
バイオプラスチックの焼却が従来のプラスチックの焼却よりも「有利」かどうかは、単純には判断できません。ライフサイクルアセスメント(LCA)という手法を用いて、原料調達から製造、使用、廃棄(焼却を含む)に至る全過程での環境負荷を総合的に評価する必要があります。
LCAの結果は、原料の種類(例えば、トウモロコシ由来のPLA、サトウキビ由来のバイオPEなど)、製造方法、製品の用途、そして最終的な廃棄方法(焼却時のエネルギー回収率、リサイクル率、コンポスト化の可否など)によって大きく変動します。特定の条件下では、バイオプラスチックが従来のプラスチックよりもライフサイクル全体でのCO2排出量を削減できることが示されていますが、常にそうなるわけではありません。特に、食品と競合する可能性のある原料の使用や、土地利用の変化に伴う環境負荷なども考慮に入れる必要があります。
まとめ
バイオプラスチックの焼却処理は、適切に行われ、エネルギー回収を伴う場合、化石資源の使用抑制と再生可能エネルギー利用の促進という点で環境負荷低減に貢献する可能性があります。また、原料植物のCO2吸収を考慮すると、従来のプラスチック焼却とは異なる側面を持ちます。
しかし、焼却時の有害物質管理、エネルギー回収の効率、そして最も重要なライフサイクル全体での環境負荷評価を無視することはできません。バイオプラスチックだからといって無条件に「環境に優しい焼却が可能」と考えるのではなく、その種類、製造方法、そして地域のごみ処理インフラを含めた全体像の中で、最適な処分方法として焼却がどの程度貢献できるのかを判断することが重要です。
ごみ処理の現場では、様々な種類のプラスチックが混ざって処理されることが多いため、バイオプラスチックと従来のプラスチックを区別して焼却することは現実的でない場合もあります。このような現状も踏まえ、バイオプラスチックの導入にあたっては、その製品が最終的にどのように処理される可能性が高いのかを考慮し、その上で環境負荷の低減に繋がる製品を選択していく姿勢が求められます。