バイオプラスチック情報の伝え方:誤解を防ぐコミュニケーションのポイント
バイオプラスチックに関する関心が高まる一方で、その複雑な性質から市民の間で誤解が生じやすい側面があります。環境問題に関わる方々が、正確な情報を効果的に伝えるためのポイントについて、Q&A形式で解説します。
【質問1】なぜバイオプラスチックについて市民に伝えるのは難しいのですか?
【回答】 バイオプラスチックは、「バイオマス由来」であることと「生分解性」であることの2つの異なる性質を持つ素材を含んでおり、その両方もしくは一方の性質を持つものを総称しています。この定義自体の多様性に加え、原料の種類、製造方法、製品の機能、そして適切な処分方法が製品によって異なることが、情報伝達を複雑にしています。
特に、環境負荷の評価には、ライフサイクル全体での考慮(LCA)が必要であり、単純に「従来のプラスチックより優れている」と断言できない場合が多いことも、説明を難しくする要因です。さらに、新しい技術や概念が含まれるため、専門的な内容を分かりやすくかみ砕いて伝えるための工夫が求められます。
【質問2】市民の間でよく見られるバイオプラスチックに関する誤解にはどのようなものがありますか?
【回答】 市民の間でよく見られる誤解として、以下のようなものがあります。
- 「バイオプラスチックはすべて土に還る、あるいは自然に分解される」 「生分解性」を持つバイオプラスチックであっても、特定の温度、湿度、微生物が存在する環境下で初めて分解が進みます。自然環境(土壌や海洋など)では、種類や環境条件によってはほとんど分解されないものも多くあります。「生分解性」が謳われていても、「どこで、どのような条件で」分解されるのかを正しく理解する必要があります。
- 「バイオプラスチックは環境負荷がゼロ、あるいは非常に低い」 バイオプラスチックの原料栽培、製造、輸送、使用、廃棄といったライフサイクル全体で環境負荷が発生します。従来のプラスチックと比較してCO2排出量削減に貢献するものや、化石資源の使用量を減らせるものなど環境メリットがある一方、原料栽培における土地利用の変化、水資源の消費、肥料の使用、製造時のエネルギー消費など、新たな環境課題が生じる可能性もあります。環境負荷は製品の種類や製造・処分方法によって大きく異なり、一概に「環境に良い」とは言えません。
- 「バイオプラスチックは従来のプラスチックの万能な代替品である」 バイオプラスチックは、強度、耐熱性、耐久性などの物性が従来のプラスチックと異なる場合が多く、すべての用途に適しているわけではありません。製品の機能性やコスト、製造インフラなども考慮して選択されるため、従来のプラスチックの代替として普及が進むには、技術的な課題や経済的な課題も存在します。
【質問3】グリーンウォッシュと誤解されないために、情報発信で注意すべき点は何ですか?
【回答】 グリーンウォッシュとは、実際には環境配慮に乏しいにも関わらず、環境に優しいかのように見せかける行為を指します。バイオプラスチックに関する情報発信でグリーンウォッシュと誤解されないためには、以下の点に注意が必要です。
- メリットだけでなく、課題や限界も誠実に伝える: 生分解性であっても分解条件があること、ライフサイクル全体での環境負荷を考慮する必要があること、コストやインフラの課題など、メリットと同時にデメリットや課題も包み隠さず伝える姿勢が信頼を得る上で重要です。
- 部分的な側面だけを強調しない: 例えば、特定の環境下での生分解性試験結果だけを提示し、あたかもあらゆる自然環境で分解されるかのような印象を与えることは避けるべきです。限定的な環境メリットを全体像のように見せる表現は誤解を生みやすいです。
- 根拠に基づいた情報を提供する: 環境負荷低減効果などを示す場合は、LCAに基づいた定量的なデータを示すなど、科学的な根拠を明確にすることが求められます。曖昧な表現や感情的な訴えかけだけでなく、客観的な事実を提示することが重要です。
- 認証マークの意味を正確に伝える: バイオプラスチック製品に付与される認証マークは、それぞれが定める基準(バイオマス度、生分解性など)を満たしていることを示します。そのマークが具体的に何を保証しているのか、どのような試験基準に基づいているのかを分かりやすく説明することが、誤解を防ぎ、製品を選ぶ際の判断材料となります。
【質問4】バイオプラスチックについて市民に伝える際、特に強調すべきポイントは何ですか?
【回答】 市民への情報伝達において、特に以下の点を強調することで、正確な理解を促進し、誤解を防ぐことができると考えられます。
- 「バイオマス由来」と「生分解性」は異なる概念であること: 原料が植物由来(バイオマス由来)であっても、必ずしも生分解性があるわけではないことを明確に伝えることが重要です。それぞれの性質が持つ意味と、それらが製品の機能や環境への影響にどう関わるのかを説明します。
- 「生分解」には条件があること: 生分解性バイオプラスチックが分解されるには、特定の温度、湿度、微生物などの環境条件が必要であることを強調します。「自然環境で勝手に分解されるわけではない」という点を理解してもらうことが、ポイ捨ての抑制などにもつながります。
- 適切な処分方法の重要性: バイオプラスチック製品を環境負荷低減につなげるためには、製品ごとの適切な処分方法(例えば、指定された施設での産業用コンポスト、または焼却)に従うことが不可欠であることを伝えます。自治体の分別ルールなどを確認するよう促すことも有効です。
- ライフサイクル全体での評価の視点: 個々の製品が持つ特定の環境メリット(例:原料の再生可能性、特定の環境下での生分解性)だけでなく、製造から廃棄までの全体像を考慮することの重要性を伝えます。これにより、「部分最適」ではなく「全体最適」の視点を持ってもらうことができます。
【質問5】市民への説明に役立つ情報源やツールはありますか?
【回答】 市民への説明をより効果的に行うために、以下のような情報源やツールが役立ちます。
- 各種認証制度の解説資料: JBPA(日本バイオプラスチック協会)などが発行するバイオプラスチックに関する認証マーク(BPマークなど)の解説資料は、マークの意味や基準を正確に伝える上で有用です。
- 公的機関や関連団体の発行物: 環境省や経済産業省、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)などの公的機関、あるいは学会や業界団体が発行するパンフレットやガイドライン、Q&A集などは、信頼性の高い情報源となります。
- ライフサイクルアセスメント(LCA)の事例紹介: 特定の製品や用途におけるLCAの結果を分かりやすく示すことで、ライフサイクル全体での環境負荷を比較する視点を伝えることができます。第三者機関によるLCA評価事例なども参考になります。
- 自治体の分別・処分方法に関する情報: 製品の適切な処分方法については、地域ごとの分別ルールに従う必要があります。自治体のウェブサイトや配布物で、バイオプラスチック製品がどのように扱われるべきかを確認し、その情報を市民に伝えることが実践的なガイダンスとなります。
- 図やイラストを用いた解説資料: バイオプラスチックの複雑な概念(例:原料と機能の関係、生分解のメカニズム、LCAの考え方)を視覚的に表現することで、より直感的な理解を促進できます。
これらの情報源やツールを適切に活用し、バイオプラスチックに関する正確で分かりやすい情報を、誠実な姿勢で伝えることが、市民の理解を深め、適切な行動変容を促す上で不可欠であると考えられます。